タイトルがなぜ「3」始まりなのかというと,1と2は下書きまで書いたけど公開はやめたからです.

こんにちは.
今日は「いいフナの日」だそうで,フナの記事です.

21世紀になり,DNAを用いた系統解析が盛んにおこなわれるようになりました.
様々な研究結果を見ながらフナ属の分類について考えてみたいと思います.
文献情報は#5にあります.

なお,ここから先は私の妄言や戯言,超解釈,知ったか,諦めなど盛り沢山ですので真面目に読まないように!

○遺伝子からみたフナ属魚類の系統
ここでは,以下の略称を使用したりしなかったりします.
 ゲンゴロウブナ → ゲンゴロウ
 ニゴロブナ → ニゴロ
 アムールフナ → アムール
 ヨーロッパブナ → ヨーロッパ
また,キンギョは飼育品種のみを指すのではなくCarassius auratusという種(時には亜種)を指します.
その他間違った用語の使い方などあるかもしれませんが勢いで読んでください.

Murakami et al. (2001) のmtDNAのD-loop領域の系統解析では,一部のギンブナはキンギョと同じ系統に属していました.これらはアムールフナかもしれないとのことです.また,ニゴロブナとナガブナはギンブナの形態学的な変種であるという仮説を立てました.なお,分類は中村 (1982) に従っているようなので,2倍体のギンブナはオオキンブナかと思われます.ということは,神奈川県にはオオキンブナが生息していることになります.
 ギンブナI:千葉県印旛沼(3n),神奈川県渋田川(3n,4n)
 ギンブナII:神奈川県渋田川(2n,3n,4n),長崎県境川(2n),琵琶湖(3n),千葉県印旛沼(3n),徳島県大和川(3n)
 ニゴロ:琵琶湖
 ナガブナ:魚屋
 ゲンゴロウ:琵琶湖,千葉県印旛沼,魚屋
 キンギョ:魚屋(ワキン,リュウキン,コメット)
系統関係:ゲンゴロウ+((キンギョ・ギンブナI)+(ニゴロ・ナガブナ・ギンブナII))

Iguchi et al. (2003) は霞ヶ浦産のフナについてmtDNAのCRの系統解析を行いました.結果として,キンブナ(Type A)とType B(ギンブナあるいは中間型と呼ばれるもの?)は識別できませんが,Type Cはこれら2種と少々差がありました.後の研究との整合性を考えるとType Cはキンギョです.
系統関係:(キンブナ・中間型?)+キンギョ

高瀬 (2005) はmtDNAのND5およびCyt b遺伝子を用いて系統解析を行いました.結果として,キンブナはギンブナなどとは少々差がありました.印旛沼の個体はアムールフナのようです.
 ゲンゴロウ:神奈川県?(Podlesnykh et al., 2012)
 ギンブナ:渋田川(2n),印旛沼(3n)
 キンブナ:群馬県水試
 キンギョ:中国雲南省,魚屋
 アムール:印旛沼,中国新疆北部,ロシアバイカル湖
系統関係:ゲンゴロウ+((キンブナ+ギンブナ)+(アムール+キンギョ))

野口 (2007) は本州および福江島のフナ属魚類をもちいて,mtDNAのND1全領域の系統解析を行いました.結果として6つのクレードに分かれましたが,各クレードの類縁関係は系統樹の作成方法によって差がありました.
 クレードI:滋賀県(ニゴロブナ),東京都,三重県,長野県,福井県
 クレードII:静岡県,三重県,長野県
 クレードIII:長崎県,三重県
 クレードIV:三重県,東京都(キンブナ)
 クレードV:神奈川県?(ゲンゴロウブナ),三重県
 クレードVI:岐阜県,三重県,キンギョ,ヨーロッパ(おそらくキンギョかアムールフナの誤同定,中国産)
系統関係(NJ法):VI+(V+(IV+(III+(II+I))))
系統関係(ML法):III+IV+VI+V+(II・I)
系統関係(MP法):VI+(V+(III+IV+(II+I)))

Kalous et al. (2007) はエルベ川流域からCarassius langsdorfiiギンブナ)を報告しました.染色体数は156なので3倍体と考えられます.mtDNAのCyt b遺伝子の系統解析では網走湖のフナはこのギンブナと少々差があるようです.
 ヨーロッパ:ドイツ,チェコ
 アムール:チェコ
 ギンブナ:網走湖,チェコ(3n)
 キンギョ:ペット店,研究所
 ゲンゴロウ:神奈川県?
系統関係:((アムール+キンギョ)+(ゲンゴロウ+ギンブナ))+ヨーロッパ

Komiyama et al. (2009 [Feb]) のmtDNAのD-loop領域を用いた系統解析ではキンギョはアムールフナの一系統からなることが示されました.また,静岡のヒブナはキンブナとされていますが,キンブナと形態が変わらないヒブナということなのでしょうか?気になるところです.
 キンギョ:中国,日本(クロデメキン,シュブンキン,ランチュウ,チョウテンガン,オランダシシガシラ)
 アムール:中国
 キンブナ:東京都,静岡県(ヒブナ)
 ギンブナ:日本(2n,3n)
 ゲンゴロウ:神奈川県?
系統関係:ゲンゴロウ+((キンブナ+ギンブナ)+(アムール・キンギョ))

Sakai et al. (2009 [May]) はカザフスタンから形態的および遺伝的に既知種と異なる個体群(以下"M")を発見しました.また,mtDNAのCRの系統解析ではチェコ産アムールフナの一部が日本産フナ(キンブナ+中間型)のクレードに属していましたので,このフナはアムールフナではなかったのかもしれません.種の同定はBerg (1949) に従っているようですが,遺伝的な特徴とは必ずしも一致するわけではないようです.
 ヨーロッパ:カザフスタン,チェコ
 "M":カザフスタン
 アムール:カザフスタン,ロシア,チェコ,フランス
 ギンブナ:琵琶湖
 中間型:霞ヶ浦(論文中ではギンブナ),チェコ(論文中ではアムール)
 ニゴロ:琵琶湖
 オオキンブナ:狩野川(?),筑後川
 ナガブナ:浦野川,三方湖
 キンブナ:逆沢川,霞ヶ浦
 キンギョ:中国長江,カザフスタン(論文中ではアムール),魚屋
 ゲンゴロウ:琵琶湖
系統関係:ゲンゴロウ+(ヨーロッパ+(”M”+((キンギョ+アムール)+(キンブナ+中間型+ニゴロブナ・ナガブナ・オオキンブナ・ギンブナ))))

Takada et al. (2010 [Jan]) のmtDNAのCRの系統解析(Fig. 2)では日本および中国,ロシアにおけるゲンゴロウブナを除くフナ類は以下の7つのクレードに分かれました(太字は推定の自然分布域).クレードIはキンブナを含むようです.同様にVがアムールで,VIIがキンギョという感じです.
 クレードI:本州
 クレードII:九州,奄美大島,徳之島,沖縄島
 クレードIII:本州,四国,種子島,沖縄島
 クレードIV:奄美大島,沖縄島,久米島,伊是名島,伊平屋島,座間味島,南大東島
 クレードV:ロシアアムール川,方正孵化場,開平,斉孵化場,九江孵化場,武漢孵化場
 クレードVI:台湾,沖縄島,石垣島
 クレードVII:九州,沖縄島,伊是名島,種子島,石垣島,渡嘉敷島,本州,台湾,キンギョ,長江,方正孵化場,斉孵化場,開平
系統関係(mtDNA,CR):ゲンゴロウ+((I+II)+(III+(IV+(V+(VI+VII)))))
さらに,mtDNAのCRおよびND4,ND5,Cyt bを連結した解析(Fig. 5)では以下の7つのクレードに分かれました.こちらはフナ属魚類の進化的関係に重要な意味を持ちます.Superclade A(クレードI-III)およびSuperclade B(クレードIV-VII)は分岐してからかなりの時間がたっていると推定されました(化石からの推定では39万年前).
 クレードI:本州,チェコ(Kalous et al. (2007)ではギンブナ),ギリシャ(Tsipas et al. (2009)ではアムールフナ)
 クレードII:九州,奄美大島,徳之島,沖縄島,ギリシャ(Tsipas et al. (2009)ではアムールフナ)
 クレードIII:本州,四国,種子島,沖縄島
 クレードIV:沖縄島,久米島,伊是名島,伊平屋島
 クレードV:アムール川,中国(Li & Gui (2007),Komiyama et al. (2009) ではアムールフナ),カザフスタン(Sakai et al. (2009) ではアムールフナ),チェコ(Kalous et al. (2007)ではアムールフナ),フランス(Gilles et al. (2001) ではキンギョ)
 クレードVI:沖縄島,石垣島,アムール川,台湾(魚市場)
 クレードVII:四国,沖縄島,石垣島,長江,中国(Li & Gui (2007) ,Komiyama et al. (2009)ではアムールフナ),オーストラリア(Haynes et al. (2009) ではキンギョ),カザフスタン(Sakai et al.  (2009) ではアムールフナ),キンギョ
系統関係(Supermatrix):ゲンゴロウ+(ヨーロッパ+((I+(II+III))+(VI+(V+(IV+VII)))))

Yamamoto et al. (2010 [Feb]) はmtDNAのCRを用いて系統解析を行いました.キンブナおよびギンブナ,ニゴロブナ,ナガブナ,オオキンブナはいずれも単系統ではありませんでした.しかしながら,クレードD-IIは九州のみに分布していました.また,筑後川と霞ヶ浦の一部の個体はキンギョと同じクレードに含まれていました.中国からのコイの導入とともに日本に来た可能性が指摘されています.
 クレードA:ゲンゴロウ(琵琶湖,三方湖,筑後川)
 クレードB:キンギョ(筑後川,霞ヶ浦)
 クレードC:アムール
 クレードD-I:キンブナ(霞ヶ浦),ギンブナ(浦野川,霞ヶ浦)
 クレードD-II:オオキンブナ(筑後川),ギンブナ(筑後川)
 クレードD-III:ナガブナ(浦野川,三方湖),キンブナ(逆沢ため池),ニゴロ(琵琶湖),オオキンブナ(加古川),ギンブナ(浦野川,琵琶湖)
系統関係(mtDNA):ゲンゴロウ+((キンギョ+アムール)+((D-I+D-II)+D-III))
また,核DNAのAFLP分析でもキンブナおよびギンブナ,ニゴロブナ,ナガブナ,オオキンブナはいずれも単系統ではありませんでした.
系統関係(核DNA):ゲンゴロウ+D-III+(((D-III+アムール)+D-II)+(D-I+D-III))

Rylková et al. (2010 [Apr]) はmtDNAのCyt b遺伝子の系統解析から様々な品種のキンギョがやはり単系統となり,アムールフナがその姉妹群であることを報告しました.
 キンギョ:中国長江,チェコ,ポルトガル,観賞魚屋(シュブンキン,Lionhead,デメキン,リュウキン,オランダ,ランチュウ,Pandaなど)
 アムール:ボスニア・ヘルツェゴヴィナ,チェコ,フランス,中国
 ギンブナ:チェコ
 ゲンゴロウ:神奈川?
 ヨーロッパ:チェコ
系統関係:ヨーロッパ+(ギンブナ+(ゲンゴロウ+(キンギョ+アムール)))

Apalikova et al. (2011) はmtDNAのCyt b遺伝子を用いて系統解析を行いました.アムールフナには2系統が存在していました.これまでの研究結果から考えると,片方はキンギョかもしれません.
系統関係:ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+(アムールI+アムールII))

Wouters et al. (2012 [May]) はmtDNAのD-loopと核マイクロサテライトマーカーの解析からヨーロッパブナとアムールフナの雑種を報告しました.mtDNAの系統解析ではアムールフナが2系統ありました.一部が日本産となっていますが,中国産の間違いかと思われます.また,アムールフナの1つの系統に近縁な中国産ゲンゴロウブナという謎のフナも…
 ヨーロッパ:スウェーデン,チェコ
 ゲンゴロウI:神奈川県?
 ギンブナ:日本
 オオキンブナ:東京,静岡(Komiyama (2009)のキンブナ)
 アムールI:ロシア,スウェーデン
 キンギョ:日本,中国
 ゲンゴロウII:中国
 アムールII:中国,スウェーデン,チェコ,ポーランド,エストニア,ウクライナ
系統関係:ヨーロッパ+(ゲンゴロウI+((ギンブナ+オオキン)+(アムールI+(キンギョ+(ゲンゴロウII+アムールII)))))

Kalous et al. (2012 [Jun]) はアムールフナのネオタイプの指定とmtDNAのCyt b遺伝子を用いた系統解析を行いました.その結果,アムールフナには遺伝的に2系統いることがわかりました.アムールIIはもしかしたら"M"かもしれません.
 キンギョ:中国長江,朝鮮半島,アルバニア,ギリシャ,チェコ(ペットショップ),カザフスタン
 アムールI(Takada et al. (2010) のクレードV):ポーランド,エストニア,ロシア,ルーマニア,ブルガリア,チェコ(Neotype),モンゴル
 アムールII(="M"?):モンゴル
 ギンブナ(Takada et al. (2010) のクレードI,II,III):本州,北海道,壱岐島,沖縄島
 ゲンゴロウ:本州
 ヨーロッパ:ドイツ,イギリス,チェコ
系統関係:ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+ギンブナ)+(アムールII+(アムールI+キンギョ))

Gao et al. (2012 [Aug]) はmtDNAのCRおよびcyt b遺伝子の組み合わせを用いて系統解析を行いました.その結果,キンギョ類(アムールフナおよびキンギョ)には大きく分けて6つの系統があることがわかりました.また,C3およびC4については人為的な移植は無いと推測しました.
 クレードC1:福建省,ベトナム
 クレードC2(Takada et al. (2010) のクレードV):中国(南部の一部は移植),ロシア,チェコ
 クレードC3(Takada et al. (2010) のクレードVI):貴州省,台湾,沖縄島
 クレードC4(Takada et al. (2010) のクレードIV):雲南省,安徽省,福建省,琉球列島
 クレードC5:中国南部(長江)
 クレードC6(Takada et al. (2010) のクレードVII):中国,チェコ,台湾,本州,四国,九州,琉球列島
系統関係:ヨーロッパ+(ゲンゴロウブナ+(ギンブナ+(C1+(C2+(C3+(C4+(C5+C6)))))))

Podlesnykh et al. (2012 [Dec]) はmtDNAのcytochrome b(cyt b)およびcontrol region(CR)それぞれの系統解析を行いました.アムールフナの一部はキンギョと差がありませんでした.その他のアムールフナは2系統存在していました.
 キンギョ:チェコ,中国,ロシア,日本
 アムールI:ウズベキスタン,ロシア
 アムールII:ロシア,ウズベキスタン,チェコ,中国
 アムールIII:ロシア
 ギンブナ:北海道,チェコ
 ゲンゴロウ:宮城県,神奈川県?,中国
 ヨーロッパ:ドイツ,ロシア
系統関係(cyt b):ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+ギンブナ+(アムールIII+(アムールII+(キンギョ・アムールI))))
系統関係(CR):ヨーロッパ+ゲンゴロウ+(ギンブナ+(アムールIII+(アムールII+(キンギョ・アムールI))))


Kalous et al. (2013 [Feb]) はmtDNAのCyt b遺伝子を用いて系統解析を行い,イタリアおよびドイツ,ボスニア・ヘルツェゴヴィナからギンブナを発見しました.ただし,学名がギンブナなだけなので形態的にどのようなものなのかはわかりません.
 ギンブナI(Takada et al. (2010) のクレードI):ドイツ,チェコ,ギリシャ
 ギンブナII(Takada et al. (2010) のクレードIII):北海道,本州
 ギンブナIII(Takada et al. (2010) のクレードII):沖縄,ギリシャ,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ,イタリア
系統関係:ヨーロッパ+((キンギョ+アムール)+(ゲンゴロウ+(ギンブナIII+(ギンブナII+ギンブナI))))

Rylková et al. (2013 [Mar]) はmtDNAのCyt b遺伝子を用いて系統解析を行いました.Supplementary dataが見れなかったので詳細はよくわかりませんが,日本のフナ(学名はギンブナになっている)は大きく分けて3系統あるようです.Takada et al. (2010) のSuperclade Aも3系統でしたからまあ,数は合います.
系統関係:ヨーロッパ+((ゲンゴロウ+ギンブナ)+(”M”+(アムール+キンギョ)))

Rylková & Kalous (2013 [?]) はチェコからギンブナを報告しました.ただし,mtDNAのCyt b遺伝子の系統解析によれば,このギンブナはKalous et al. (2007) で同じくチェコから報告されたギンブナとは異なる系統のものでした.
 ギンブナI:本州・四国・種子島・沖縄島(Takada et al. (2010) のクレードIII),北海道網走湖(Kalous et al. (2007) のギンブナ)
 ギンブナII:チェコ(Kalous et al. (2007) のギンブナ,Papoušek et al. (2008)),ギリシャ(Tsipas et al. (2009) ),本州(Takada et al. (2010) のクレードI)
 ギンブナIII:チェコ,沖縄島・奄美大島・徳之島・壱岐(Takada et al. (2010) のクレードII),ギリシャ(Tsipas et al. (2009) )
 キンギョ:チェコ(ペットショップ),中国
 アムール:ボスニア・ヘルツェゴヴィナ,フランス,ポーランド
 ゲンゴロウ:三方湖
 ヨーロッパ:チェコ,ドイツ
系統関係:ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+((キンギョ+アムール)+(ギンブナIII+(ギンブナII+ギンブナI))))

冨澤ほか (2015)はmtDNAのD-loop領域と核DNAのc-myc遺伝子を用いて,宮城県魚取沼のテツギョがキンギョとフナの交雑個体であることを明らかにしました.ここで気になるのが,テツギョの親となったフナは関東のキンブナと系統が異なることです.もし,テツギョの親となったフナの形態がキンブナと同じであるならば,キンブナにも2系統存在することになります.
 キンギョ:日本,中国,魚取沼(テツギョ)
 キンブナ:静岡県,東京都
 ギンブナ:日本
 テツギョ:魚取沼
 ゲンゴロウ:日本
系統関係:ゲンゴロウ+(キンギョ+(キンブナ+(ギンブナ+テツギョ)))

Liu et al. (2017) は日本とユーラシア大陸の49地点のフナのmtDNAのCRを解析した結果,大きく分けて4つの系統があることを示しました.約760万年前にlineage A+BとC+Dが分岐し,約571万年前にAとBが,約579万年前にCとDがそれぞれ分岐したと推定しています.
 lineage A:長江(起源?),黄河,琉球列島(Takada et al. (2010)のクレードIV)
 lineage B:本州,四国,九州,琉球列島(Takada et al. (2010)のクレードI,II,III)
 lineage C:中国
 lineage D:中国,本州,琉球列島(Takada et al. (2010)のクレードVII)
系統関係:(lineage A+lineage B)+(lineage C+lineage D)

Knytl et al. (2018 [Jan]) はヨーロッパブナとアムールフナの交雑個体を報告しました.その際,myDNAと核のS7タンパク質遺伝子の両方の系統解析を行いました.
 ヨーロッパ:チェコ
 アムール:チェコ,ドイツ
 キンギョ:チェコ
 ギンブナ:日本,チェコ,ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
 ゲンゴロウ:日本
系統関係(mtDNA):ヨーロッパ+((アムール+キンギョ)+(ギンブナ+ゲンゴロウ))
系統関係(S7):ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+(キンギョ・アムール+ギンブナ))


Halas et al. (2018 [Feb]) は北アメリカのフナ属についてCyt b遺伝子を用いて解析を行い,キンギョとアムールフナだけではなくギンブナもいることを明らかにしました.Figure S1の系統樹によると中国大陸には多くの系統が存在するようです.やばいです.
 ヨーロッパ:
 ゲンゴロウ:
 ギンブナA(Takada et al. (2010)のクレードII):
 ギンブナB(Takada et al. (2010)のクレードI):カナダ,アメリカ合衆国
 ギンブナC(Takada et al. (2010)のクレードIII):
 C. cf. gibelio(="M"):モンゴル
 C. sp. KR-2010a:
 C. sp. KR-2014d(Rylková et al. (2018)のベトナム南):
 C. sp. KR-2014a(Rylková et al. (2018)のベトナム北):
 C. cf. auratus:中国
 アムール(Takada et al. (2010)のクレードV):カナダ,モンゴル,ポーランド
 キンギョA(Takada et al. (2010)のクレードVI):
 キンギョB(Takada et al. (2010)のクレードIV):
 キンギョC:中国
 キンギョD(Takada et al. (2010)のクレードVII):カナダ,アメリカ合衆国
系統関係:ヨーロッパ+((ゲンゴロウ+(ギンブナA+(ギンブナB+ギンブナC)))+("M"+(KR-2010a+(KR-2014d+KR-2014a+cf. auratus)+アムール+(キンギョA+キンギョB+(キンギョC+キンギョD)))))

Rylková et al. (2018 [Apr]) はCarassius argenteaphthalmusの有効性について調べました.mtDNAのCyt b遺伝子と核DNAのリボソームタンパク質S7遺伝子それぞれの系統解析を行ったところ,S7ではアムールフナとキンギョは単系統になりませんでした.これは交雑によるものと考えられるようです.ちなみにCarassius argenteaphthalmusはnomen dubiumとみなされるそうです.
 ベトナム南(Gao et al. (2012)のクレードC1):ベトナム
 ベトナム北:ベトナム
 アムール:チェコ,ウクライナ(Rylková et al., 2013)
 キンギョ:中国,ベトナム,チェコ(魚市場)
 ギンブナ:ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(Rylková et al., 2018),網走湖(Kalous et al., 2007),チェコ(Rylková et al., 2013),ウクライナ(Kalous et al., 2012)
 ゲンゴロウ:三方湖(Kalous et al., 2012)
 ヨーロッパ:イギリス(Kalous et al., 2012),チェコ(Rylková et al., 2013),スウェーデン(Rylková et al., 2013)
系統関係(Cyt b):ヨーロッパ+((ゲンゴロウ+ギンブナ)+(キンギョ+(アムール+(ベトナム北+ベトナム南))))
系統関係(S7):ヨーロッパ+(ゲンゴロウ+(ギンブナ+((ベトナム北+ベトナム南)+(キンギョ・アムール))))

Khosravi et al. (2020) はイランのフナ属魚類ついて調べました.mtDNAのCyt b遺伝子の系統解析ではイランには3種のフナ属魚類がいることがわかりました.ギンブナは日本からソウギョなどとともに移植,キンギョは長江下流域からの移植,アムールフナの起源は中央ヨーロッパと推定しています.
 ヨーロッパ:ドイツ,グレートブリテン(養魚場),チェコ,スウェーデン,オーストリア
 ゲンゴロウ:三方湖
 ギンブナI(Takada et al. (2010) のクレードII):イラン,ギリシャ,ボスニアヘルツェゴビナ,イタリア,チェコ,ウクライナ,壱岐島,奄美大島,徳之島,沖縄島
 ギンブナII(Takada et al. (2010) のクレードI,III):ギリシャ,チェコ,ウクライナ,ドイツ,浦野川,網走湖,沖縄島,加古川,四国,種子島,琵琶湖,長良川,島根県高津川
 Carassius sp.(="M"?):モンゴル
 アムール:イラン,チェコ,トルコ,ウズベキスタン,ウクライナ,ハンガリー,ボスニアヘルツェゴビナ,フランス,ギリシャ,ルーマニア,ポーランド,クロアチア,トルコ,エストニア,フィンランド,ドイツ,ブルガリア,中国,オーストリア,モンゴル,イタリア,朝鮮半島,スロバキア,ロシアアムール川
 キンギョ:イラン,中国,チェコ,ポルトガル,スペイン,オーストリア,アメリカ合衆国,ドイツ,ギリシャ,アルバニア,モンテネグロ,朝鮮半島,カザフスタン,沖縄島,静岡県,石垣島,四国
系統関係:ヨーロッパ+((ゲンゴロウ+(ギンブナI+ギンブナII))+(Carassius sp.+(アムール+キンギョ)))

以上をざっくりまとめると、ヨーロッパブナ,ゲンゴロウブナ,"M"は単系統;キンブナも単系統かもしれない;ニゴロブナ,ギンブナ,ナガブナ,オオキンブナは非単系統(全部合わせると,大きく分けて2か3系統);アムールフナとキンギョを合わせたものは単系統っぽい,という感じです.
細かな部分を見ればこれに合わないかもしれませんが.

○3倍体の起源
フナ属魚類は普通2倍体なのですが,ギンブナは3倍体あるいは4倍体も存在していることはよく知られています.特にギンブナは3倍体あるいは4倍体のみであるとされています.ここでは3倍体のフナに関する過去の知見を整理して,3倍体がどのようにして誕生したのか,ギンブナとは一体何なのかについて迫っていきたいと思います.

小林ほか (1970) は宮崎のギンブナは2倍体(2n=100)で関東のギンブナは3倍体(3n=156)あるいは4倍体(4n=206)であることを報告しました.また,2倍体では一部の染色体にsatelliteがあることも報告し,このsatelliteを微小染色体とみなすと2n=104になるとしました.

小林ほか (1973) は北海道のナガブナ,琵琶湖のギンブナがそれぞれ3倍体であることを報告しました.岡山県のギンブナは2倍体であるとしています.

関谷・本間 (1973) は新潟県のフナ属魚類の分布を調査しました.そこで得られた3倍体の個体は在来のフナとゲンゴロウブナの中間的な形質であったことからこれらの雑種であると考えました.

関谷・本間 (1975) は新潟県のテツギョの形態と染色体を調査したところ,テツギョはキンギョとフナの交雑個体であると考えました.染色体は2倍体(2n=100)と3倍体(3n=153)のものが含まれていました.また,3倍体はすべて雌で,3n=153と3n=156の2系統あると推察しました.

小野里ほか (1983) は4倍体の起源について,3倍体メスの雌性前核が偶然精子核と合体して4倍体が生じたと考えました.3倍体の起源については2倍体集団から出現したことは疑いないが,どのように生じたかは不明であるとしています.

Shimizu et al. (1993) は電気泳動の解析から,倍数性ギンブナは雑種起源の系統であることを示唆しました.

Iguchi et al. (2003) はmtDNAの系統解析でギンブナと中間型が別の系統に属したことから,フナ属魚類の3倍体化は複数回起きたと考えました.キンブナと中間型は同じ系統に属するため,中間型はキンブナと何か別のフナが交雑した結果,3倍体化したのかもしれません.

高瀬 (2005) は3倍体ギンブナのゲノムマーカーを解析したところ,約87%が2倍体ギンブナ(オオキンブナ?)およびアムールフナ両方のバンドを持っていました.このことから,3倍体ギンブナの多くは母親が2倍体ギンブナで父親がアムールフナであると考えました.

Sakai et al. (2009) はカザフスタンから形態的および遺伝的に既知種と異なる個体群を発見しました.そして,系統解析からギンブナが日本産の雌の2倍体フナと大陸産の雄の2倍体フナの雑種を起源とする異質3倍体であるという考えを支持しました.

Takada et al. (2010) は琉球列島のフナについて,11の島を調査したところ,2倍体および3倍体,4倍体の個体が存在することを報告しました.そして,日本および中国,ロシア各地のフナのmtDNAの系統解析では7つのクレードのうち,6つのクレードで3倍体または4倍体が含まれていたことから,3倍体は多系統であるという説を支持しました.また,同所的に生息する3倍体と2倍体では頻繁にハプロタイプを共有していました.

Luo et al. (2014) は系統解析の結果,3倍体は多系統であるという説を支持しました.また,3倍体の発生はKleptogenesis(温度依存性の精子の取り込み)が要因である可能性があるとしました.

三品ほか (2015) は日本のフナの集団構造を調べたところ,3倍体フナは日本のフナと大陸・琉球列島のフナのゲノムを併せ持つ異質倍数体であることが示されました.また,「雌性発生をする3倍体が有性・無性生殖サイクルを介し,2倍体からの遺伝子流動を受ける可能性がある」としました.ちょっと表現が難しすぎて私の頭では理解できませんでした.

高田ほか (2015) の交配実験では,琉球列島の2倍体フナ同士の交配で3倍体が発生しました.また,2倍体メスには2nの非還元卵が生じ,これが受精することによって3倍体が発生すると推定しました.

Liu et al. (2017) は日本とユーラシア大陸の49地点のフナのmtDNAのCRを解析した結果,427ハプロタイプが見つかり,出現率の高いものを調べたところ,74のハプロタイプが2倍体と3倍体が共有されていました.このことから3倍体は複数(少なくとも4つ)の独立した起源を持つと考えました.また,3倍体化したフナが再び2倍体に進化する可能性についても…?

Knytl et al. (2018) はヨーロッパブナとアムールフナの交雑個体を報告しました.交雑個体のメスは3倍体で3n=156でした.このことから2つの仮説が立てられました;
ゲノム追加仮説:2倍体ヨーロッパブナと2倍体アムールフナの交雑個体の染色体数106の卵にアムールフナの1倍体精子が受精した.
自発的な異質3倍体起源説:ヨーロッパブナの1倍体精子と染色体数106のアムールフナの卵が受精した.
通常の個体はヨーロッパブナもアムールフナも2n=100なので3倍体になったとしても3n=150となり,染色体数が合いません.しかしながら,染色体数が通常と異なる個体も過去に報告されているので,3倍体の起源にはそのような個体が関わっているのかもしれません.

以上をざっくりまとめると,2倍体のフナが3倍体になる条件の一つとして異種(あるいは異亜種)との交雑があるようです.
高瀬 (2005)からすると,ギンブナは1つの種というわけではなく,日本のフナとアムールフナの交雑個体(あるいは他の要因で3倍体になった個体)の総称とみるべきかもしれません.
ギンブナは日本のフナとアムールフナの交雑個体であることからすると,中間型はキンブナとアムールフナ(あるいはキンギョ)の交雑個体かもしれませんね.そう考えると少しすっきりしてきました.(この説が正しいかどうかはわかりませんが)

次回に続きます.